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【レビュー:映画】「この世界の片隅に」

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【レビュー:映画】「この世界の片隅に」


大きいことは、強いことか?

小さいことは、弱いことか?


主人公のすずさんは、戦時下の広島から呉に嫁いできた。

まだよく知らない男性の元へ。

すずさんにとって、誰ひとり知った人のいない土地での生活が始まる。


慣れない暮らしの中、奮闘する新米主婦すずさん。

失敗も多々あって、そんな時すずさんの口癖は「あんれまぁ~」。

あーあーと言いながら、隣にいる人と「あはは」と笑いあう。


大きいことは、正しいことか?

小さいことは、儚いことか?


戦争。理不尽なこと、苦しいこと。暮らしの中のささやかな失敗の繰り返し。

すずさんは「あんれまぁ~」の一言で、空気に「ぽち」っと句読点を打ち、

また手足を動かして働き、暮らしを続けていく。


すずさんの暮らす呉は軍港の街。

戦いの要所である海軍工廠を、敵軍は狙って攻めてくるようになる。

増える空襲の数と競い合うように生活の困窮も増える。


それでも、すずさんの「あんれまぁ~」は、

つい「あちら側」に向かいそうになる、私たちの襟首を「こちら側」に引き戻す。


小さいことは、弱いことか?

小さいことは、弱いことか?


****


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呉。2016年8月。今も昔も、船の町。


舞台となった街、呉。


私はここに、9歳からの数年間を暮らしていました。

湾を取り囲むように山がそびえる、軍港に最適な地形を持つ街。

今も、船乗りの制服を着た人と当たり前のようにすれ違う。

暮らしはいつも急な山の斜面の上にあり、登ったり降りたりの毎日。

急な坂を登り、はぁはぁしながらふと振り返ると、

いつもそこには港があり、ちょっと大きさのバランス感覚が狂うような

巨大船が眠るドックがあった。


少女時代の私も、すずさんと同じようにドックに眠る船の絵を描くのが大好きだった。


坂とクレーン。海と軍港。

呉は鉄のまち。

向こうには、いつも明るい日差しにきらめく静かな瀬戸内の海があって。

人々の話す言葉ときたら、

もしたとえ叱られていたとしても、どこか慰められているかのように聞こえる

のんびりとした優しい響き。


その言葉の響きを思い出すだけで、今もふっと涙ぐんでしまいそうになる。


男性性と女性性。

海と山。

2つがなぜか不思議に、矛盾することなく共存する街。

それが呉。


映像の中に、自然に取り込まれているのが、本ものの呉の空気。

丁寧に掬い取られ、映像の中に収められている。


****


「それぐらいの覚悟があってやってたんじゃないのか!」


物語のピークで、すずさんが問う。


(小さきものを)それこそ根こそぎ押しつぶすくらいの覚悟でやっていたんじゃないのか!


初めてすずさんが見せる、理不尽への怒り。


戦争という怪物のような理不尽を、日々「あんれまぁ」でやり過ごし、

工夫を重ね手足を動かし、普通の暮らしと大事な命を守ることに費やした人々。


世を覆い尽くす「大きなもの」に向けて叩きつけられる、このセリフは最大の「問い」だ。

原作者はこうの史代さん。


ふと、同時代を描いたアニメ、宮崎駿の「風立ちぬ」が思い出される。

主人公である設計技師を支えた、病弱な妻。

あの像を頭の片隅に思い浮かべる。

思えば彼女は、男性の作家が生み出した女性像だったような気がする。

「物語におけるファンタジーとしての女性像」であったなあということ。

(あ、嫌いじゃないです。あれはあれでよし)


ただ本作のすずさんは違う。

生きる。

ささやかな今日を、知恵を使って生き延びて、明日も生きるために今日を生きる。

「あんれまぁ」は、生きていくすずさんの命の証し。


この映画は、どんな小さな役の登場人物にも、

ほんのりと、そしてしっかりと生きた血がかよっている。


映画のエンドロール。

「クラウドファンディング協力者」の名前が、スクリーンに流れる。

絶えることなく画面に続く、肩書きのない「個人の名前」の数々。

この映画は、一般の人々がクラウドファンディングで製作を支えたという。

2016年11月の公開開始から、年をまたいだ現在も公開先は拡大し続けている。


小さいことは、

決して儚いことでも、弱いことでもないのだ。

今も昔も「小さな個」が支えたものには、私たちがなくしてはならない

大事な真実がある。


そう答えはいつだって「ここ」にある。


******


*おすすめ度 星5つ

きっと、映画館で観るのが良いです。




by kureharu | 2017-01-08 23:07 | レビュー(観る・聴く・訪れる) | Comments(0)

もっとすこやかに、さらにごきげんに!


by くれはる
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